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子育てで得た力をデジタル広告のキャリアに生かして活躍中:The Trade Desk 井川麻里子さんに聞く【前編】

変化が激しいデジタル広告業界で育児をしながらキャリアを積むのに必要なものとは何か。前回は、出産・育児を経て20年以上この業界で活躍するIndex Exchangeの香川晴代さんに、キャリアの継続、活躍の秘訣を伺いました。

今は、女性が子どもを持ちながら産休・育休をとってキャリアを積むことが当たり前になり、男性の育児休業取得推進の動きもあり、男女関わらず育児をしながら働くことが求められています。ただ、めまぐるしく変化するこの業界で、一時的なブランク、時間的な制約が発生することは、いつの時代でも働き方に大きな影響をもたらします。

今回は、現在まさに子育て中であるThe Trade Deskの井川麻里子さんに、時間的な制約を乗り越え、さらなるステップアップを目指すために実践していることを香川さん、アタラCEOの杉原が伺いました。

話し手:
The Trade Desk
アソシエイト ビジネス デベロップメント ディレクター
井川麻里子さん

聞き手:
Index Exchange
日本担当マネージングディレクター
香川晴代さん

アタラ合同会社
CEO
杉原剛


デジタル広告の仕組みに感動してデジタル広告業界へ

杉原:まずは井川さんご自身の自己紹介とThe Trade Deskの紹介をお願いします。

井川:The Trade Deskの井川麻里子と申します。The Trade Deskで広告主向き合いの営業を担当しております。The Trade Deskは、2009年にアメリカのカリフォルニアで設立し、日本オフィスにおいては2014年に開設。今、注目のOTT・CTVを含むオムニチャネルに対応し、デバイスを横断して広告配信できるバイサイドに特化したDSPを提供しています。

私のキャリアについては、新卒でガスを中心としたエネルギー関連の大手企業に入社し、主に新卒採用や研修業務に約3年携わりました。そこからデジタルマーケティングにキャリアチェンジをして、2016年にThe Trade Deskに入社、約6年間アカウントマネージャーを務めました。主に広告代理店向き合いの提案、運用のサポート、後半はマネジメントの業務にも携わりました。

その後、広告主向き合いの仕事の経験を積むために、TikTokを運営するByteDanceに転職しました。そこで経験を積んだ後、2023年に入って、The Trade Desk Japanが広告主向き合いのチームを立ち上げるタイミングで、ご縁あって再入社しました。今は、外資系のお客さまを中心に広く担当しています。広告主から広告代理店とのコミュニケーションまで、幅広く携わっています。

杉原:エネルギー関連の企業からデジタルマーケティングへ、なぜキャリアチェンジされたのでしょうか。

井川:もともとクライアントをはじめとした外部の方と関わる仕事にチャレンジしたいと思っていました。かつ、グローバルな環境、よりテクノロジーやイノベーティブな領域で新しい経験を積みたいと思っていたところ、The Trade Deskと出会い、リアルタイムビディングの仕組みなどを知る中で「これはすごい」と感動して飛び込みました。

社内にはeラーニングシステムがあり、業界の仕組み、The Trade Deskの強みについては、社員が一定のナレッジを得ることができます。初心者ではありましたが、そこでキャッチアップができました。

香川:麻里子さん(井川さん)とは私の前職時代に、世界最大の消費財メーカーの動画広告キャンペーンでご一緒して以来のご縁なのですが、とにかくガッツがすごいんですよ。スポーツもずっとやっていらして、スポーツの“攻め”のメンタリティを感じます。

井川:小学校から高校までサッカーをやっていました。スポ根系かもしれません(笑)。

杉原:では、香川さんの自己紹介もお願いします。

香川:Index Exchangeの香川晴代です。2000年にデジタル広告業界でのキャリアをスタートしました。DACの国際事業部、オーバーチュア、アマゾン・ジャパンで日本での広告事業立ち上げに関わり、フェイスブック・ジャパン、動画SSPのアンルーリーを経て、2019年にIndex Exchangeに日本担当のマネージングディレクターとして入社しました。

Index Exchangeは、グローバルな独立系アドエクスチェンジ企業で、本社はカナダにあります。メディア・バイヤー(広告枠を購入したい人/マーケターと代理店)とメディア・セラー(広告枠を売りたい人/パブリッシャー、アプリデベロッパー、ストリーミング・プロバイダー)間のプログラマティック取引を可能にするテクノロジーで、メディアオーナーには収益の拡大を、マーケターにはあらゆるスクリーン、広告フォーマットを通じて消費者にリーチする価値を提供しています。また、国内外DSPパートナーと密に協業をしており、The Trade Deskとも協業関係にあります。

また、杉原さんとはオーバーチュア時代の同僚で、かれこれ20年のお付き合いとなります。当時の社内の文化の名残で、剛、晴代と下の名前で呼び合っています。

産後に戻る場所は自分でつくる

香川:麻里子さんは今、未就学のお子さんを育てながらお仕事をされていますが、出産・育児で働き方や考え方は変化しましたか。

井川:出産するまでは目の前のことを、とにかくがむしゃらにやる、というスタンスでした。業界も未経験だったので、一つ一つ、全てを吸収しようという気持ちでした。

妊娠が分かったときには、出産半年後に職場復帰することは決めていました。同時に考えたのが、産休・育休に入るまでに、今までを超える結果を残そうということです。

実は、The Trade Deskの日本オフィスで産休・育休取得第1号だったんですね。前例がない中ではありますが、戻ってくることができる場所は自分でつくるものだというのが、自分の中でとても強くありました。その思いもあって、妊娠中も、日々の仕事はもちろん、国内出張や海外出張も全力で取り組みました。

香川:すごいですね!計画的に妊娠から産休前まで行動していたんですね。

井川:今、思うと、ちょっと力み過ぎていたかなと思います(笑)。なので今は、妊娠中の女性や、これから育休に入る女性にも男性にも「そんなに力を入れ過ぎなくていいよ」とアドバイスをしています。育休中については「子どもと、しっかり集中して向き合うほうがいい。帰ってきたら仕事はたくさんあるから!」とも伝えていますね。

The Trade Desk 井川麻里子さん

ただ、振り返ると、そのときにすごく頑張っていたことで復職後に新しいチャンスが舞い込み、今のキャリアにつながっています。とても大変な時間でしたが、妊娠前よりもさらに頑張った経験というのは、自分の自信になっているとは思っています。

香川:The Trade Deskの中でも、APACやグローバルでは前例があったでしょうが、身近にはなかったということですよね。それは大きなことだと思います。なのに、不安が全く見えない!私も前例のない中での産休・育休でしたが、不安しかありませんでした。

杉原:二人とも共通しているのは、時代は違えど前例がなかったということですね。

井川:そうですね。確かに不安は不安だったのですが、不安を打ち消すように、がむしゃらに働いていました。

香川:それだけ頑張って、妊娠中、体調は問題なかったのですか。

井川:体調については、正直、とてもよいわけではありませんでした。しかし、働く時間をフレキシブルにしてもらったり、在宅で働けるようにしていただいたりしたおかげで、仕事を減らさずに済みました。おそらく仕事を減らすこともできたとは思いますが、環境を調整することで、妊娠中もフルタイムで今までと同等に仕事をさせてもらいました。周りが味方してくださったのが本当に大きかったです。この点については、会社に感謝しかありません。

杉原:組織としては、とても柔軟な対応をしてくださったわけですね。もともと御社ではリモートでシステムにアクセスできる環境はあったのですか。

井川:コロナ禍前だったので、まだリモートが今ほど普及していなかったのですが、リモートへの対応を会社が柔軟にしてくださったおかげで仕事を継続できたことも大きかったです。

妊娠してからは逆算してとるべき行動を考えるように

香川:復帰に当たって、何か準備はされましたか。

井川:復職する1カ月ほど前から、香港にいた上司とオンラインで面談をしたり、同僚とご飯に行ったりして、会社の状況を教えてもらいました。あと、自分が復職したら何を求められるか、どこでどんな仕事ならば産休・育休前と同等かそれ以上に自分が活躍できるかが知りたくて、上司だけでなく、いろんな職種の方に面談していただくこともしていました。

半年で復帰を決めていたので、仕事のための自己啓発などはせず、育休中はママ業に全力で専念しました。同時に、育休中のワーキングマザーたちと交流する機会はつくっていましたね。「復帰したらサポートが必要だよね」とか「こういう時間の使い方しなきゃ」という会話をよくしていて、少しずつは準備をしていたと言えるかもしれません。

杉原:とにかく先々を考えて計画的に過ごしていたんですね。

井川:妊娠してから、時間に対する考え方がすごく変わったんですよね。逆算して、いつまでに何をする、という考え方が強くなりました。例えば、いつまでに、これをやらなきゃとか、これを握らなきゃとか、こういう自分になりたいから、このタイミングで転職しなきゃとか、逆算してとるべき行動を考えるようになりました。

香川:時間の制限があるから、なおさら計画的に進めようというのは分かる気がします。全部はできないですからね。

井川:はい。時間に追われる分、計画的に逆算するようになりました。

杉原:アタラも、育休・産休期間はコミュニケーションは完全に止める形にしています。すると、やはり本人は不安に思われます。それは無理もないことですし、会社のことが気になるとは思うのですが、お休み中は育児にしっかり専念してもらいたいと思っています。ただ、変化の激しい業界ではあるので、急に戻ってくると状況がかなり変わっていました、ということはあり得るので、井川さんのように少し助走期間を置くというのはすごくいいですね。

井川:そう思います。

杉原:晴代のときは助走期間はありましたか。

香川:なかったと思います。急に戻ってきて、ぼうぜんとしていたような…。さらに、復職後は忙しくて考える余裕もなかったですしね。麻里子さんは、一度The Trade Deskに復職してからByteDanceに転職したのですか。

井川:The Trade Deskに戻ってきて、約1年8か月ほど勤務しました。

香川:元の職種(アカウントマネージャー)に戻ってきたのですか。

井川:はい、そうです。プレイング・マネージャーとして新しいお客さまを担当しながら、メンバーのマネジメントをするという両軸で仕事をしていました。なので、復帰してから仕事が減ったとか、希望していない仕事をすることになったなどという経験を全くしていません。私の場合、幸いなことに、メンバーのマネジメントという新しいことにチャレンジさせてもらいました。

香川:復職後の大変さは、復職前にシミュレーションしていたと思いますが、戻ってきてみていかがでしたか。

井川:めちゃくちゃ大変でした。

香川:対談が始まって初めて、大変だったって言いましたね(笑)。やはり戻ってみたら大変だったと。

井川:本当に大変でした。大変さの原因は、やはり「時間」だと思います。打ち合わせの時間を調整してもらわなければいけなかったり、会食や懇親会などで関係性を深めることがなかなかできないのも大変でした。

杉原:晴代も前回、同じ話をしていましたよね。

香川:前回も同じ、会食に参加できない話をしました。なんかもう、胸が痛む感じでしたね。ミスアウトしている(見逃している)感じ。実際、そんなことは何も起きていないんですけどね。今ならそう思うのですが、当時は「会食で何を話していたんだろう?」みたいなのが気になって気になって。

井川:そうですよね。自分だけ置いていかれてるような感覚でした。

価値観の合う職場、育児で得た忍耐力で両立の大変さを克服

香川:それが復職後のリアリティだと思います。では、この大変さを乗り越えられている要因は何でしょうか。

井川:自分の中で、職場選びは、柔軟な業務時間が確保できることと、業務時間の長さで任される仕事が制限されないことを重視しています。そこが合致するので、The Trade Deskで長く働いているというところはあります。おそらく、会社の方向性と個人の方向性が合わないと続かないので、会社に変わってほしいというよりも、会社と価値観が合うことを重視して職場を選んで乗り越えている形です。

あとは、ちゃんと主張すること、コミュニケーションを取ることかなと思っています。上司に対しても「前例はないけれど、時短ではなく復帰したらフルタイムでこのように働きたい」といったコミュニケーションは積極的にとるようにしていますし、この業界はきちんと伝えれば実現しやすい業界かなとも思っています。

香川:そのとおりだと思います。

井川:ママだけではなく、パパも、働き方の柔軟性については交渉しやすいのかなと。

杉原:声を上げるというのは、本当に大切ですよね。晴代のときも前例がなかったけど「こうしたい」というコミュニケーションをとってたと思うし、当時の上司だったグレース(グレース・フロム氏。現:CRITEO株式会社 北アジア地域最高責任者 兼 日本取締役社長)からの助言もあって、働き方や周りのサポートも変わった部分もあるかなと思います。マネジメント側に言わないと分からないというと、ちょっと受け身になってしまいますが、そういう側面も確かにあるので、言うこと、コミュニケーションすることはすごく大切です。

井川:家庭によってママとパパの家事や育児の分担のバランスもあると思います。そのバランスに応じて会社が個々に合わせて柔軟に対応できるといいのかなと思っていて、そうすれば女性だけじゃなく男性も働きやすい業界になるでしょうし、企業がそういった柔軟性を持つかどうかは、今後、人材を逃さないための鍵になってくると強く感じています。

Index Exchange 香川晴代さん(左)、  アタラ合同会社 杉原剛(右)

香川:男性で育休をとる人は、The Trade Deskの日本ではいらっしゃいますか。

井川:はい。子どもが生まれた人で、育休をとっていない人は、いないです。「子どもが生まれる=育休はいつとるの?」というコミュニケーションが発生する環境になっています。

香川:もう、とるのが当たり前になってるんですね。

井川:そうですね。期間は6週間ですが、時期を2回、あるいは3回に分けて取得する人もいますし、ママとずらして育休をとる人もいて、とてもフレキシブルです。

香川:Index Exchangeの日本オフィスでも育児中の男性社員は多く、保育園に送り迎えに行く話や子どもの体調の話など、チームの中で普通にします。男性が育児休暇を取得するのが当たり前というのは、御社と同じです。復帰後はマネジメントにも関わるようになったということですが、業務としては、やはり以前よりも大変になったのではないですか。

井川:業務とマネジメントを両立するプレイング・マネージャー的な立場だったこと、シンプルに新しいチャレンジだったので大変だったことも多かったです。ただ、時間の使い方は以前より、うまくなったかなと思いますし、新しいメンバーと働くことで、働き方や価値観において自分の視野も広がったと思います。あとは、マネジメントは忍耐力が必要な場面も多いのですが、母親になって以前よりも忍耐力が高まったというのが大きかったですね。

香川:育児をしていると絶対に忍耐力、高まりますよね。子どもと対峙していたら、いろいろなことが予定どおりに進まないし、もう待つしかないみたいなときもしょっちゅう…。

井川:そうですね。全てが思いどおりにはいかないけど、見守るとか、やり方をちょっと変えてみるといった忍耐力を子育てをとおして学びましたし、さらに仕事でも学ぶことができて、相乗効果でとてもよかったです。


続く後編では、働きやすいデジタル広告業界に必要なことは何か、広告運用者は業界においてどういう立ち位置であるべきかなどについて、香川さん、アタラCEOの杉原がディスカッションしました。あわせてご覧ください!

※当記事の内容、所属、肩書きなどは記事公開時点のものです
※本記事は、広告運用とマーケティングの情報サイト「Unyoo.jp」掲載記事(2024年2月28日公開)の転載です。


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