相関分析の落とし穴、プロマネの知識体系「PMBOK」、『2030年の広告ビジネス』を読む:ナレッジハイライト2023年5月号
アタラ合同会社マーケティングコンサルティングチームの恩田将維です。
アタラでは、「アタラ道場」という勉強会を開催しています。この勉強会では、広告プラットフォームのアップデートについての共有や、昨今のマーケティングトレンドに留まらず、メンバーそれぞれの強みを活かしたナレッジの共有を、毎回一人のコンサルタントが「師範」となって持ち回りで行っています。
今回は2023年5月に実施した「アタラ道場」を振り返ります。
相関分析の基本と落とし穴
この回は本山師範による「相関分析の基本と落とし穴」でした。相関関係を分析する際の落とし穴やExcelを用いた相関分析の方法を稽古いただきました。
相関関係とは
相関関係とは、2つの事柄が関わり合う関係のことです。特に統計学では一方の数値が増加すると、もう一方の数値が減少または増加する関係のことをいいます。ただし、相関関係は、一方が増えることでもう一方が増加または減少する状態を指すだけであり、それだけで2つの事象に因果関係があると判断できるものではありません。
相関の強弱(相関係数)
相関係数は、相関の強さと正の相関か負の相関かを数字で表したものです。おでん屋を例に挙げ、気温と売上に負の相関があることを本山師範が分かりやすく説明してくれました。
因果関係とは
因果関係とは、「原因とそれによって生じる結果との関係」のことです。例えば、アルコール摂取量が増加すると判断能力が低下するのは因果関係になります。また、相関関係は、必ずしも因果関係とはならないことが説明されました。
相関関係の落とし穴
相関関係の落とし穴について、クイズ形式で解説いただきました。
外れ値
外れ値は、他のデータに比べて大きく外れた値のことです。相関関係は、外れ値の影響を大きく受けるため、外れ値を異常値として排除していいものかどうかを適切に判断することが大切であると説明されました。
シンプソンのパラドックス
シンプソンのパラドックスは、統計学におけるパラドックスの一種です。集団をいくつかのサブグループに分けた時に、各サブグループごとの結果と全体の結果が逆転してしまうというものです。データをどのグループで見るべきかが重要であることが分かりやすく説明されました。
非線形の関係
非線形の関係とは、比例しない関係のことです。非線形の関係は、相関係数のみを見てもどのような関係があるか判断ができないため、散布図を書くことが重要であると説明されました。
疑似相関
疑似相関とは、二つの事象に因果関係がないにも関わらず、見えない要因によってあたかも因果関係があるかのように見えることです。水の事故とアイスクリームの売上には、気温を第三の変数とした疑似相関があることが説明されました。相関関係を見る際に、疑似相関がないかを考えることの重要性が伝えられました。
Excelでできる!カンタン相関分析
最後に、Excelを用いてできる相関分析のやり方について解説いただきました。門下生も一緒にExcelを操作しながら学ぶことができました。
PMBOK lite edition
この回は村田師範による「PMBOK lite edition」でした。プロジェクトマネジメントにおける大事な考え方や具体的な対処方法を稽古いただきました。
PMBOKとは
PMBOK(Project Management Body of Knowledge)は、プロジェクトマネジメントに関する知識を体系的にまとめたものです。アメリカの非営利団体「PMI」によって作られています。プロジェクトマネジメントにおける心構えから具体的な管理フォーマットまで幅広く学べるものになっています。また、PMBOKを基にした国際資格であるPMP(Project Management Professional)もあります。この回では、業務中に起きるいくつかの問題に対して、PMBOKの考え方を用いてどのように対応するかを稽古いただきました。
やっている間にいろんな話が出てきてまとまらなくなる問題
プロジェクトを進めていく中で様々な意見が出てきてまとまらなくなることがあります。こうした状況を避けるために、
プロジェクトの目的を正しく定める
プロジェクトオーナーを決める
ことが重要だと説明いただきました。ビジネス課題に言及した目的を定めることで、各施策の優先度づけができるようになります。また、責任をもって意思決定をする人(プロジェクトオーナー)を決めることが重要です。プロジェクトを始める時に、上記2点や予算・スケジュールなどを決めるプロジェクト設計を行うことが大事になります。
響く企画(デザイン、その資料)がつくれない問題
相手に響く企画が作れないことがあります。相手に響く企画の条件として、
ユーザーに受け入れられそうか
自社に向いていそうか
根拠があるか
があると説明いただきました。それぞれの条件を考える際に以下のようなフォーマットを活用できます。
ユーザーに受け入れられそうか
ペルソナ
カスタマージャーニー
UXフロー/ワイヤーフレーム
自社に向いていそうか
ブランドイメージ調査
自社サイト構造調査
競合&自社サイト比較
根拠があるか
アクセスログ解析
アンケート調査
また、企画を考える上での大事な心構えについても説明いただきました。
いつまでたっても修正が終わらない問題
修正が終わらずスケジュールが遅延する問題についての対処方法を説明いただきました。まず、「修正」は「正しい状態に直すこと」で、「変更」は「正しい状態を変えること」です。そのため、何が正しい状態かを決めることが大事で、「修正」は基本的には全て行う必要があります。「変更」は、あらかじめ回数とタイミングを制限した上で許容し、スケジュールに組み込むことが重要です。
具体的には、WBS(スケジュール)やプロジェクト設計書、見積書に記載し、相手に伝えておくことが重要になります。
ちゃんとテスト(チェック)したのになぜかミスが減らない問題
テストの確認漏れや確認ミスを減らすためにテスト設計が重要であると説明いただきました。テスト設計をせずになんとなく確認を行うと確認漏れが発生してしまいます。テスト設計をする上で、「どこの」「なにを」「どのように」チェックするかを決め、結果がどういう状態が正しいかを決めることが大事になります。具体的には、開発仕様書やテスト仕様書/結果書を活用できます。
納品後に「あれはないの?」となったり、なかなか褒めてもらえない問題
相手の期待値をコントロールし、成果を相手に伝えることが大事であると説明いただきました。具体的には、見積書やプロジェクト設計書の段階で期待値のコントロールを行います。その上で期待値を超える成果を出し、プロジェクトレポートや振り返り会で相手に伝えることが大事になります。
『2030年の広告ビジネス』を読んでみた
この回は小湾師範による「『2030年の広告ビジネス』を読んでみた」でした。横山隆治、 榮枝洋文著『2030年の広告ビジネス デジタル化の次に来るビジネスモデルの大転換』(翔泳社、2023年4月)をもとに、広告代理店のビジネスの変革や業界予想を稽古いただきました。
「マーケティング支援」から「事業支援」へ
メディアが多様化し広告の影響力が小さくなる中、支援会社は、マーケティング施策全体の支援や事業支援まで領域拡張する必要が出てきます。事業支援には、コンサルティング・プランニング・エグゼキューションを継続的に行える体制が必要になります。
日本ローカルのデジタル化 vs. グローバルデジタル
これまで日本でデジタル化ができているのは一部のB2B企業のみで、多くのB2C企業は施策のデジタル化やデジタルツールの導入のみで、本質的なデジタル化・DXはできていません。こうした日本ローカルのデジタル化は、いずれツケが回ってきます。DXは、「デジタル思考」の人財を育成すること、そうした人財によるプロセスのDXが本質だと説明いただきました。日本企業は、ツールをカスタマイズして自社に合わせるのではなく、ツールにビジネスフローを合わせるほうがよいとのことでした。
広告クリエイティブのAI化が本格始動
クリエイティブの領域もAI化が進みます。アイデアを大量に作成できるAIが投入され、AIクリエイティブファームなるものも設立されていくでしょう。実行部分の最適化からAI導入が進みますが、最終的には上流までAIが行うようになるでしょう。
エージェンシーとSIerとの連携協業が始動
広告代理店とITコンサルティング企業の収益構造は似ており、競合関係にあります。広告代理店はメディア収益での回収が難しくなる中で、SIerとの協業が進みます。コミュニケーション領域を含むマーケティング提案をシステム導入で回収することで、ITコンサルティング企業に対抗するようになります。お互いの強み・弱みを補完する関係構築が期待できます。
SNS起点のコミュニケーションプランニングはCMクリエイティブにまで到達
SNSが発展する中で買い手にとって、ブランド側が発信する情報よりも、同じ立場で商品を評価してくれる消費者の情報の影響が高まっています。そのため、ブランドメッセージは、ブランドに一定の共感を持つ消費者に求める必要があり、SNS(口コミ)から得られる情報によってコアアイデアやキーメッセージを作りこみ、全体像を描くようになります。テレビCMについても、SNSから得られる情報によって作られたキーメッセージをもとに作られるようになるでしょう。
マーケティングコンサル vs. ITコンサルの攻防激化
日本ではマーケティングの定義が曖昧であり、マーケティングコンサルティングというビジネスは確立されていません。一方、ITコンサルティングは確立されたビジネスになっています。マーケティングシステム導入を行う際に、お互いの競争が生まれます。システム導入は経費と考えられていますが、マーケティングシステム導入を投資と思わせられるかがポイントになってきます。
YouTuberビジネスの終焉とコンテンツの見直し~テレビ番組の凋落は続く~
YouTubeの再生回数は頭打ちになっています。また、YouTubeへの大手広告主の参入が増える中で、広告挿入のタイミングやコンテンツへの疑問視が生まれています。ユーザーや広告主がコンテンツを取捨選択し、YouTuberビジネスは終焉を迎えます。
一方でテレビ番組の凋落も進みます。テレビ離れにより視聴率が低下し、制作予算の低下によりコンテンツの質も低下しており、テレビ離れが加速します。テレビは新たな収益構造を構築する必要があります。また、延べ視聴率(GRP、Gross Rating Pointの略)という通貨の見直しも必要になります。そうした中でインターネット回線を通じてコンテンツを配信するストリーミングサービスであるOTT(Over The Top)が日本で本格的に始動します。また、リテールメディアの広告の配信先として、コネクテッドTVも活用されるようになるでしょう。連携により、リテールメディアは広いリーチと新たなデータを獲得でき、大きな市場に成長することが予想されています。
業界予想
広告代理店は、コンサルティングファームと競合します。広告代理店の優位性はエグゼキューション能力なので、維持向上が必要であり、コンサルティングファームはエグゼキューション能力を強化する必要があります。
広告代理店のビジネスモデルは、プランニングやクリエイティブのAI最適化が進み負荷が軽減していきます。
また、マーケティング支援だけではなく、人財の提供ビジネスやベンチャーキャピタルといったビジネスへ変革していくと予想されています。
最後に、本書の話をもとにした小湾師範の業界予想についてもお話がありました。
さいごに
今月も各師範より熱く稽古いただき、日々の業務で意識していきたいポイントが満載でした!
アタラにはこうしたナレッジを共有する機会が非常に多くあります。今回の投稿を通じて少しでも興味を持っていただけるとうれしいです。