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進化・拡張を続ける運用型広告、時代はAI、リテールメディアへ:運用型広告上陸20周年記念 特別鼎談 第3部

2002年に運用型広告の原型ともいえる、オーバーチュア、Googleアドワーズが日本市場に上陸してから、20年の月日が経ちました。

インターネットの歴史をひもとけば、1989年に欧州原子核研究機構 (CERN) のティム・バーナーズ=リーによって発明されたWorld Wide Web(WWW)は、1990年世界初のウェブページの公開によって幕を開け、インターネットの普及に大きく貢献。

1995年に発売されたWindows95の世界的大ヒットで、一般市民の間にもパソコンが急速に普及しました。固定電話のダイアルアップ接続で通信されていたインターネットはISDN、ADSL、光回線へと通信速度を徐々に上げていき、スマートフォン登場以降は無線LAN接続(Wi-Fi接続)へとさらに変化を遂げてきました。技術の進化、利用者の急増に伴い、インターネット広告も大きく成長を続けています。

日本市場において「インターネット広告費」は、2021年には「マスコミ四媒体広告費」を上回るまでになりました。そして、その85.2%を運用型広告が占めるに至っています。

※出典:電通報「2021年 日本の広告費」より

1996年のGoTo.com(のちのオーバーチュア)、1998年のGoogle設立を経て日本へやってきた、後に運用型広告といわれるようになる新しい広告スタイルですが、上陸当初には多くの苦労があったといいます。どのようにして市場に受け入れられるようになってきたのでしょうか。

オーバーチュア、Googleの日本市場立ち上げメンバーであり、検索連動型広告市場をけん引してきた佐藤康夫、杉原剛、岡田吉弘による、歴史を振り返りつつ未来の展望を見据える特別鼎談、最終回です。

語り手:
アタラ合同会社 会長 佐藤康夫
アタラ合同会社 CEO 杉原剛
アタラ合同会社 フェロー 岡田吉弘

※こちらの記事は2023年1月30日に広告運用とマーケティングの情報サイト「Unyoo.jp」にて掲載した記事の転載です。

アトリビューション~スマートフォン普及に伴う動画広告とSNSの広がり

Unyoo.jp編集部:ここまで2回にわたって、運用型広告が日本市場に上陸して以降、中小企業が気軽に広告出稿できるようになり、日本市場に受け入れられるようになってきた経緯と苦労、ビッドジャミングによる攻防や深夜までExcelで数万行単位のキーワードと格闘しながら苦戦されてきた経験、その経験を踏まえた運用型広告レポート作成支援システム「glu」の開発に至るまでを伺いました。

最後に、一世を風靡したソーシャルメディア、動画広告、アトリビューションから昨今のリテールメディアを巡る状況と未来予測について、お話を伺いたいと思います。

佐藤:運用型広告の流れはGoogleアドワーズ、オーバーチュアが始まりで、そこにDSPが乗ってきて、ソーシャルメディアがさらに世界を広げたという感じですよね。アトリビューションは、検索連動型広告の急激な普及が少し落ち着いてきた2000年代後半からでしょうか。

杉原:僕はこの頃、2009年にアタラ合同会社を創業して。この辺りから、ほぼ毎年行っていたSES(※Search Engine Strategies。1999年から2007年、USを拠点に実施されていたSearch Engineの最新動向をテーマにしたカンファレンス)においてもアトリビューションは話題になっていました。

岡田:この時期は徐々に「ラストクリックだけで判断していいんだっけ?」という議論がされてきた頃でしたね。

佐藤:アトリビューションという言葉は馴染みが浅いし「あまり浸透しないのでは」と言っていた人が多かったけど、有園氏(現アタラフェロー)が地道なコンセプトの普及活動にドライブをかけ、検索連動型広告に押されていたバナー広告陣営も乗ってきて、割と一気に盛り上がった印象があります。ただ、これまで話した2012年ぐらいまでは全部PCでの話ですね。

岡田:はい。2000年代後半のモバイル対応は基本的にガラケーの話でした。Googleも矢継ぎ早にEZweb対応やiモード対応をしました。ただ、画期的なんだけど1位しか出ないみたいな厳しい仕様でしたが(笑)。

杉原:しかもAPIを内部で利用して即席で作った管理画面。

一同:(笑)

岡田:2000年代後半が、ガラケーが最も盛り上がった時期でした。それからスマホに移行していきます。

杉原:あの頃は広告主も消費者金融さんが多かった。法律改正前だから、まだ消費者金融が元気なころですよね。

岡田:はい。元気でした。上位の広告主に消費者金融が顔をそろえていた時代でしたね。この2010年前後ぐらいから過渡期というか、現在に続く複雑な分断(フラグメンテーション)の時代に入っていくように思います。デバイスとしてはPCもあり、ガラケーもあり、スマートフォンもあり。そこに検索、ディスプレイ、ソーシャル、フォーマットもYouTubeを中心に動画が登場して、デバイスも配信面もややこしくなりました。

佐藤:確かにそうですね。2010年代っていうのはスマホシフトと表せますよね。盛り上がってきたアトリビューションの機運が下火になっていく原因でもありました。

杉原:GoogleがYouTubeを買収したのが2007年頃でしたが、2010年代のGoogleの動きで特筆する点はYouTubeの台頭でしょうか。

佐藤:スマートフォンが普及しない限り、動画を撮影して上げるなんて行為はまあ面倒ですしね。しかし、YouTube広告は日本で売れない時期が続いて、とても悩ましかったですね。

岡田:YouTubeトップページのマストヘッドが全て埋まったのが2010年代の中頃でしたから、それまでの時期は相当苦しかったと想像しています。その苦難の時期を経て、ようやくYouTubeがブレイクしましたよね。YouTubeの視聴ユーザーはどんどん増えて総視聴時間もうなぎ上りでしたけど、メディア自体のマネタイズがまだついてきてないという状況でした。

杉原:そうですね。

岡田:はい。2010年代前半は、まだGoogleアドワーズの通常キャンペーンに動画が含まれていなくて、YouTubeは別立てで管理だったので使いにくさもありました。それが、どんどんアドワーズ広告とYouTube広告がブレンドされて、今の形に落ち着いていったのを覚えています。YouTubeの普及にはさまざまな要素があると思うんですけど、いちばんはYouTube視聴ユーザーが完全に閾値を超えて可処分時間をかっさらっていったことだと思います。それまで、いろいろな理由で反対したり乗り気じゃなかった広告主もなし崩し的についてくるようになったのかなと。

もう一つは、同時期に始まったソーシャルメディアの躍進です。動画だけで完結する世界であれば、クリエイターはここまで増えなかったと思います。ソーシャルメディアがあって、動画一つに対して配信する複数のプラットフォームがあり、反応と拡散が可視化されていくというエコシステムができたことで、連動してクリエイターも増えていったので。結果として近年はInstagram、Facebook、TikTok、どのプラットフォームもみんな動画、動画、動画……全部そんな感じですよね。

2010年代、オーディエンスターゲティング広告とリマーケティング広告の台頭~AIへの移行

Unyoo.jp編集部:YouTubeをきっかけにユーザーによる動画配信が流行しはじめ、GoogleのYouTube買収とソーシャルメディアの台頭、スマートフォンの普及、さまざまな要素が加わり、勢いをつけて次の時代へ進んでいきましたよね。

2000年代後半から2010年代、YouTube買収以外のGoogleの動きは、あらためてどのようなものだったのでしょう。

杉原:センセーショナルだったYouTubeの登場を振り返ると、ここ最近の10年間は、Googleでローンチされたサービスで派手なものはなかったように思います。2010年代初頭、Googleアドワーズはあまり売れず、方向性がまだあまり固まってなかった。踊り場に立っていた時代でしたが、2010年代中盤辺りから状況がガラッと変化しました。今の市場シェアはFacebookと二分して、FacebookとGoogleでグローバルのデジタル広告市場の半分を占めている状況ですよね。

佐藤:Googleの広告運用システム自体は、ものすごい進化してきましたからね。

岡田:2009年頃にオーディエンスターゲティングの機能がローンチされ、そこでリマーケティング広告も出てきました。個人的な意見ですが、運用型広告の基本は検索連動とコンテンツターゲティングだと思います。検索は言わずもがなで、コンテンツターゲティングは今、見ているページに関連性がある「広告を情報にする」という考え方に忠実なプロダクトです。

ただ、コンテンツターゲティングは関連性はあってもコンバージョンしやすいかというと別にそうでもなかった。それがダイレクトレスポンス志向の広告主には刺さりにくかったのかなと思います。そこで、一度見た商品やサービスに関連した広告を何度も繰り返し見せるほうが結果的にコンバージョンしやすいということで、後から登場したリマーケティング広告が一気に主役に躍り出るという状況でした。

杉原:Criteoに押される形で、Googleもリマーケティング広告で大きく成長したと思います。

岡田:そうですね。それまで力を入れていたガラケーはCookieに対応できないので、トラッキングもリマーケティング広告を出稿できない。なので、この頃はセールス的にもリマーケティング一辺倒でした。

杉原:僕がお二人とGoogleで一緒だった頃は、ちょうどコンテンツマーケティング2.0が出て、大幅に機能が改善され、かつ、プレースメントターゲットが登場したころでしたよね。旧来からの広告プランニングに慣れてる人にとっては、とてもいいよね、とコンテンツターゲットで企画して、その中でパフォーマンスのいいものをプレースメントにかけるみたいな感じでしたけど、この頃のプランニング方式へと回帰しつつあるのかもしれないとも思っています。

岡田:本当にそう思います。昔に比べ、自社の広告がどのパブリッシャーに表示されるのかを、広告主がそれほど意識しなくなってきています。実際、強く意識するくらいなら別の広告を出すべきですしね。だから、成果のためのプランニングに重点を置きながらも、そのためのチューニングは機械がどう認識してどう動くかを意識していく時代ですね。AI、機械学習、深層学習。

佐藤:広告もAIファーストな運用の時代に入っていくとなると、そのときに広告運用してた人は、どうなっているんでしょうか。

岡田:広告運用する人の仕事は増えるんじゃないですか。

佐藤:増える。

岡田:はい。広告運用の仕事は、むしろ増えると思います。この鼎談の最初のほうで入札の話をしましたが、これまで働く時間の多くを占めていたビッドマネジメントは、これからの時代は究極的には最初の1回しか設定しないかもしれない。それは極端だったとしても「最初の設定の重み」が、ものすごく増すのは間違いありません。そうなると、その目標の精度を高めるために、たくさんの材料を集めて見極めるプランニングが必要になると思うんです。完全なAIファーストの世界であれば。

佐藤:ああ、そうか。その事前のプランニングが大変なんだ。

岡田:はい。もちろんプランニングだけではなくて、実際にはシステムが学習するための材料を常に与え続けないといけないので、その与える材料が、そのアカウントにとって適切かどうか、あるいは的確かどうかという技術的な運用が求められます。単純にそうした側面での難易度は上がっていますし、その上で分断するメディアやフォーマット、プラットフォームの特性を見極めた、総合的なクライアントワークが求められますからね。

トラッキング一つとっても、GA4やタグマネジメントなどで専門性が分かれたりする状況なので、運用者の仕事は多岐に渡ります。例えばSPA(※Single Page Application。単一のWebページでアプリケーションを構成する名称。ページ遷移を行わず、ページやコンテンツの切り替えが可能なのが特徴)だったら、どうやってタグを発火させればいいんだろう、というような疑問があったとして、それを実際に広告運用者がどう対処するかというと、次の一連の流れに落とし込まないといけません。

  • クライアントの担当者に事情を説明して

  • クライアントの技術者にイベントを設定してもらい

  • イベントが正しくトリガーされるよう設定して

  • 設定したタグが想定の挙動をしているかを確認して

  • その挙動に合わせて各キャンペーンのクリエイティブやターゲットがどう変化したかを分析して

  • システムの解釈と企業の目標とのギャップを判断して

  • そのギャップを埋めるためのアカウント内の要素を特定して

  • その必要性をクライアントに提案して

  • ターゲティングやクリエイティブを制作する(場合によってディレクションが必要)

これを技術的にも情緒的にも一定以上の水準で実行するのは、なかなか大変だと思います。ビッドジャミングがはびこっていた時代のように「よし、広告入札価格を○○円にしておこう」みたいな単純作業から、現在はかなり高度な技術と知識の掛け算がないと成功しにくい仕事になってきていると思うんです。

佐藤:なるほど。AIと真正面から向き合わないといけない、ということなんですね。

岡田:はい。AIを道具としてきちんと扱えるかどうかという点は、ますます重要になってくると思います。例えば、使い方が分からない子どもや悪意のある人に拳銃を持たせたら高い確率で事件が起きるのと同じように、AIをよい方向に使っていくには技術や知識、そして倫理も必要になってくると思います。

佐藤:結構大変な時代に突入していますね。

岡田:プラットフォーム側もAIの導入に合わせて事故が起きにくくなるように、いろいろ対策はしているのですが、事故を起こしにくくすることは自由度を与えないこととイコールなので、管理画面上でできることはむしろ減ってくるんです。

杉原:大事なポイントですね。難しい時代ですよね。

岡田:われわれが所属していた頃のGoogleは(※2000年代初頭)、決算発表時に「CPCが上がっていない」とアナリストに常に指摘されていました。CPCが上がりにくい理由の説明として、アメリカと第三世界では経済規模が違うから、グローバルにマーケットを広げている以上、物価の差によってCPCは上がりにくいとされていました。

でも、システムを機械学習に即して自動入札化してみたら、平均CPCはグングン上がっていきました。広告主には入札単価を決めさせずに目標を決めさせて、あとはシステムが目標に沿うように自動で入札していく方式になったことで、カバレッジは広がりオークションプレッシャーも上がるので、結果的にCPCがそれまでと比べてちゃんと上がっていくという形で変化してきました。機械学習は原理的に量を求めて精度を上げていくものなので、システムもそうなるように形を変えてきたということだと思います。

佐藤:結果として、そうなったということですよね。

岡田:そうですね。物価は5%上昇したら大騒ぎになりますが、Googleは2018年以降は推定で年間30%近くCPCを上げているとされていますから大変なインフレなんですよね(笑)。それでもCPAが見合うぐらいにAIの予測精度が上がってきているので、なんとか成立してるという感じです。

佐藤:年間30%とは大変なインフレですね。強烈です。

岡田:ですので、先ほどのRPMの表の理解が大事になります。新しい機能やあえて設定した制限によって売上がどう変化していくのかをひもとくために、RPMの因数分解が糸口になるはずなんです。

杉原:確かにそうですね。

AI台頭以降、今後の運用型広告で必要とされるのは人間のアイデア

Unyoo.jp編集部:「AIの進化により人間の仕事が楽になる」などと言われた時代もありましたが、現実的にはAIの機能や特性を把握した上で、マーケティングの根幹に立ち返りながらプランニングをしていく必要が出てきたということですね。

今後デジタルマーケティング業界には、どのような変化がやってくるのでしょうか。

杉原:これまでの話の中で広告運用者の活躍の場が高度化しているけど広がっているという点は、希望がある明るいニュースだと思います。

広告業界はもともと規制産業ではない中、自主規制を中心にやってきましたが、拘束力は結局ないから、みんなそれぞれの思想や仕様で思い思いにやってきました。アドテクカオスマップに見るような群雄割拠の20年だったと思います。そこに、個人情報保護の観点から国の規制が入ったり、Appleによる強烈なゲームチェンジがあったりして、初めて制限がある中でマーケティングを実践していく状況になっているのですが、これまでできていたことからできなくなったことへ業界としても対応しきれておらず、非常にモヤモヤした数年間でしたし、今後もまだ見通しが立っていない状況です。

あと、再びフラグメンテーションの時代がきているという見方もあります。Google、Facebook、リテールメディアも含めて、さまざまなプラットフォーマーが出てきて、当面は歯止めが利かない状況です。規模と体力があってリソースフルな企業じゃないと、こうしたことに対応しづらくなってきてるなと思います。なので、リソースフルじゃない中小企業(広告主も広告代理店も)が今後どの程度ついていけるのかは、やや気になりますね。

佐藤:なるほど。

岡田:そうですよね。一方で、あらゆるプレーヤーが等しく全てに対応すべきかというと、決してそうではないと思うので、広告主がその時々の事情に合ったライトパートナーを、どうやって見つけられるのかが重要だと思います。

広告予算100万円の広告主と広告予算1億円の広告主とでは、できることもやるべきことも全て違うじゃないですか。であれば、広告予算1億円規模のキャンペーンでも対応できる陣容をそろえているパートナー企業に広告予算100万円の広告主が問い合わせても、ビジネスになりにくいと思うんです。

その逆もまたしかりで、広告予算1億円の広告主が広告予算100万円の広告主をメインターゲットにしているパートナー企業に依頼をしても、求めるスペックは満たさないことが多いと思います。その辺りのマッチングが整うと、各プレーヤーがそれぞれ生物多様性のように同じ環境の中で生きていけるんでしょうけど、なかなか難しいですね。

この問いに答えはないような気がします。でも、僕はプレイヤーがばらけて遍在しているほうが、市場としては健全でいいかなと思っています(笑)。広告出稿先の99%がGoogleという世界よりは、さまざまなプレイヤーがいて、組み合わせとアイデアと運用と技術で勝負できるほうが面白い世界だと思いますし、フラグメンテーションが進めば進むほど、その組み合わせパターンの増加によって狙える隙間も増えていくということだと思うので。

杉原:なるほど、そういうことか。

岡田:AIに絶望する必要はなくて、むしろ人間のアイデアで戦いやすくなるんじゃないかなと思っています。黎明期のように広告の入札業務しかなかったらリソースが全ての世界ですが、今はシステムがそこをレバレッジしてくれるので。

杉原:そうだね。だからTwitter、TikToker、TikTokアドプレーヤーなどを見ていても、面白いと思います。外から見た雰囲気的にも、彼らにはまた全然違った世界観があるのではないかと思っています。ものすごく勢いを感じるし、そのほかPinterestや、リテールメディアなど、いろんなところから出てくるんだろうなというのは期待感としてはありますね。そうかと思えば、アドアフィリエイトが一部ではすごく盛り上がりをみせていて「なんだその現象は」と思ったりすることもあります。広告運用というように広告運用者を捉えるのであれば「新しい現象が起きてきているな」というような感じがしないでもないですね。

佐藤:予測としては、今後インフルエンサー系というくくりが普通の広告運用の一コマになりそうな気もしますが、実際はどうなんですかね。

岡田:インフルエンサーの皆さんは、どうやったら見てもらえるか、アテンションを起点にしていて、その後に感想をSNSでシェアをしてもらって、より多くのリーチを獲得していくという流れがセオリーじゃないですか。メディアごとに、どうやってシェアされようか、どうしたら見てもらえるかということを本当に考えながら皆さん運用されているので、検索のように「ニーズにどう当てるか」という考え方で運用してきた側からすると発想からして、すでに違う能力ですよね。

佐藤:かなり運用感ありますよね。

岡田:はい。新卒での職種がトラディショナルなSIerだった自分からすると、入稿後数時間で結果が見える運用型広告ですらインタラクティブだなと感じたのに、今やソーシャルメディアのように0コンマ何秒で反応が返ってくる世界に突入したわけですから、フィードバックループはどんどん高速化しますし中毒性があって、それは楽しいだろうなと思います。クリエイティブも運用するものになりましたね。

佐藤:やっぱり勢いというか、エネルギーを感じますね。

岡田:エネルギーは感じますよね。大きな予算で作ったテレビ番組よりも、個人の30秒ぐらいのショート動画のほうが世界中で何十倍も視聴される可能性がある。パターンがありそうでないし、すぐにトレンドは移り変わるから、すごくカオティックで面白いなって思っています。

佐藤:振り返ってみて、ここ20年間もカオティック続きですよね。

杉原:そうですね。カオスな状況はずっと続いていますし、サードパーティCookieサポート廃止問題はカオスの究極なので。この先の未来、不透明だなと思うところはありますけど、やはり、そもそも規制産業じゃないんだからこの先も不透明な状況は続くんだと、そういうものだと思ってある程度楽しまなきゃとは思っています。

佐藤:確かに、そういうところはありますよね。僕はここ20年を振り返って、変わったこと、変わらないことでいうと、テクノロジー関連のプレイヤーはものすごく変わったなと思うんですけど、人間はあんまり変わらないんだなっていう(笑)。なんていうか、20年のある一つの区切りをあらためてみて、ふと本音で出ることというか。あ、20年経ったけど、本質的に人間は変わってないんだなっていう(笑)。

岡田:そう思います。愚かしさとか含め、人間臭さって急に変化するものじゃないなと。

佐藤:技術の進歩によってテクノロジーは激変しましたけど、この20年間ずっと変わらず悪いこと考える人は一定数いて、とか(笑)。そういうのは、あんまり変わんないんだなっていう。

杉原:そうですね。

佐藤:なので、われわれが今後もカオスに向き合いながらやっていかないといけないかな、と。まぁ、カオスに向き合い続けるのは正直疲れますけど、ずっと変化がない中でオペレーション的な仕事をしているよりは、業界に常に動きがあったほうが、その先どうしようと考えていけることもたくさんあって楽しいよね、という気持ちもあります。

杉原:僕は、Unyoo.jpのニュース記事執筆や2022年から始めたVoicyで業界最新動向の情報発信を行うにあたり、国内外のニュースソースを当たっているんですけど、ネタがないときって本当にないんですよ。ちょっと前までは本当にネタがなかった。いわゆるGAFAが強すぎて、業界の鮮烈な動きもなく、古参の牙城ができてしまっていて。数年間、新規参入がなかなか難しい状況だったじゃないですか。正直、つまらなかったんですよね。

今は新進系のプラットフォームとか新しいテクノロジーとか、カオスの元にもなっているサードパーティCookie廃止問題があって、市場が再び健全化していく上ではいいことなんじゃないのかなって思ったりしています。新しいプレイヤーもまた出てきてますし。

2020年代はリテールメディアが躍進。2023年以降増加が予想されるエックスメディアの行方は?

Unyoo.jp編集部:GAFAの力が強くなり、落ち着いてきたかと思いきや、サードパーティCookieサポート廃止によりファーストパーティデータに向き合う必要が出てきて、プレイヤーも新たに増加して、AIと付き合いながら手堅いプランニングを求められるようになり、確かにカオスですね(笑)。

2020年代、これから先のトピックを、どのように予想されますか。

杉原:2020年代の注目株はリテールメディアですね。リテールメディアは小売業にとって好機なのですが、日本市場においては小売業が広告出稿できる場が集約されていかないと、広告主としては全然使えないものになってしまうと思っています。

海外、例えばアメリカではWalmart、Costco、TARGET、BEST BUYなどがリテールメディアをけん引していますが、日本の場合、例えばスーパーマーケット市場一つとってもプレイヤーがばらけているので、集約プレイヤーがいないとリテールメディアは成熟していかない。小売業が商品のプロモーションしたいとなったとき、全部一元管理してくれたら「これは楽だよね」っていうふうになると思いますし、今後、日本市場のリテールメディアをけん引していくのはアドインテやD&Sソリューションズ、CriteoやPacvueになると思います。

ただ、リテールメディアはいいとして、今年から話題になっている新進系の「Xメディア(※エックスメディア。金融会社、航空会社、通信会社など顧客の優良IDを持っている企業が立ち上げている広告プラットフォームの総称。杉原が命名)」に対しては、少し不安を感じています。プラットフォームの立ち上げは僕らも長年やってきて、生半可なことじゃできないというのは身に染みて痛感しているので。プラットフォームを運営していくのも、営業していくのも、運用していくのも、もちろん大変ですし、どこまでのコミットメントがあるのかと、どうしても思ってしまうんですよね。

優良IDをたくさん持っているからといって、中のデータが必ずしもそんなにいいわけじゃないとも思いますし「広告事業は簡単じゃないんだぞ」と言ってあげたい感じもしています。これまでにも広告プラットフォームは立ち上げては淘汰されてきているのを見ているので、すごく大変そうだな、と思っています。

岡田:広告プラットフォームは両面市場というか、広告のバイサイドとセルサイド、両者が活発に関係しあっていないとネットワーク効果は起きづらいという側面もありますしね。今後、サードパーティCookieサポートが廃止されるにあたって、Xメディアの「他にない優良IDがある」という以外に、どういう優位性というか武器があるのかは気になります。

広告のバイサイドとセルサイド、両面が必要とされる市場だから「優良IDを持っています」というだけだと動機付けとしては弱いのでは、と思ってしまいます。例えば広告プラットフォームって、ものすごく強いパブリッシャーを抱えているとか「この業界では絶対ここを通さないと始まらない」といった強い理由があって初めて効果が上がるマーケットだと思うので。

杉原:そうなんですよね、両面市場のバランスをいかにとるかがとても重要で。僕はこれまでの20年間、バイサイドもセルサイドもたくさん見てきて、絶妙なバランスで両者を増やしていかないと、というのは痛感しています。当然、バイサイドもセルサイドも両方にとってのバリューがないと駄目だし、簡単なことじゃないよ、と。苦労してきた経験から、広告プラットフォームをバリューのあるものに育てていくっていうところの難しさを甘く見ていないかが心配です。たくさんの広告プラットフォームが立ち上がっていくのはいいんですけど、広告事業をやってみて「広告プラットフォームやってみたんだけど、うまくいきませんでした」って、すぐにやめるようなことはあってほしくはないですね。

岡田:そう思います。例えばソーシャルメディアのように、先にユーザーが集まって、場ができたところに広告枠を作って、バイサイドをつなげれば広告事業が成り立つよね、という流れで広告プラットフォームができるというのは、すごく分かりやすいと思うんです。一方で、Xメディアみたいに特に強いメディアや枠がなく既存事業で取れるデータだけがあって、先に広告という事業モデルだけがセットされてる状況だと大変だろうなとは思います。

杉原:そうですよね。だから、米国の先進事例でいうとWalmartのように、EC上の広告枠も店頭でのリアルな広告枠も、使おうと思えば使える広告枠が無数にある状況を作っていて、あそこまでコミットしてやっていれば、それはある程度うまくいくと思います。ただ、みんながみんな、そこまでしっかりコミットできるわけじゃないだろうと。日本でもリテールメディア推進部を立ち上げたセブン&アイホールディングスみたいに、ちゃんとやるところはやっていると思いますけどね。

いずれにせよ、Xメディアは2023年以降、DSP台頭の時代同様に雨後のタケノコのように出てくると予想しています。この20年間もずっとマーケットの変化のカオスに向き合ってきましたが、今後もカオスは続くし、向き合っていかなくてはいけないので、この業界で長くやっていくには体力と気力が必要ですね。

一同:確かに(笑)。

Unyoo.jp編集部:ありがとうございます。ここまで2000年代から2020年代まで20年間の歴史についてお話を伺い、インターネット対応デバイスの変容を含め、進化や変化を続ける業界の荒波に揉まれ、乗り切ってきた皆さまの経験にあらためて感銘を受けました。タフながら知的好奇心を刺激されつづけ退屈しない業界であるとも、あらためて思います。

本編はこちらで終了となります。
本日はご多忙の折、お集まりいただき誠にありがとうございました。

一同:ありがとうございました。


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