検索連動型広告の再整理
ポスト・サードパーティーCookie時代に突入し始めた影響もあり、検索連動型広告(Paid Search)について見直す機会が増えたと思う。
検索連動型広告は運用型広告基礎だ、と僕は思っている。
これまでの歴史的な経緯を踏まえた上で、現在の検索連動型広告について再整理してみたいと思う。
読む前に注意してほしいのは、本記事は検索連動型広告の完全ガイドでは決してないということだ。
想定できる思考パターンを、一つ一つの場合に応じ網羅的に説明することは現実的ではない。
また、こうすれば結果が出るという文章を書くことは僕にはできない。
あくまで検索連動型広告の運用力を強化するために基本的な部分から理解するための補助線くらいの内容になっている。
文中の公式ヘルプなどを理解し、自分で思考しながら実際の運用で使い、自分なりの運用方針を確立したいと思っているような人に向けた文章にすぎない。
この点を注意した上で読み進めてほしい。
検索連動型広告とは
以下の定義が僕はしっくりとくる。
検索連動型広告をもう少し視座を高くして鳥瞰図的に見ると、検索エンジンの検索結果ページ(Search Engine Result Page / SERP)を活用する手法になる。
検索結果ページ全体を活用することをサーチエンジンマーケティング(Search Engine Marketing / SEM)と呼び、検索エンジンの検索結果ページには自然検索(Organic Search)と検索広告(Paid Search)の領域がある。
検索連動型広告で理解すべき範囲
自然検索(Organic Search)の領域を最適化する検索エンジン最適化(SEO / Search Engine Optimization)を専門にするプロフェッショナルな方々がいらっしゃるが、検索広告(Paid Search)の領域を担当している私たちも基本的な知識は身につけておくべきことになっている。
なぜなら、Google 広告の動的検索広告(Dynamic Search Ads / DSA)やYahoo!広告の動的検索連動型広告(Dynamic Ads for Search / DAS)は、検索エンジン最適化と切り分けられない施策だからである。
■参考図書:
検索連動型広告は、トリガー(引き金)の理解を深める
検索連動型広告に限ったことではなく運用型広告は、トリガー(引き金)の理解が重要になる。トリガー(引き金)を理解すれば検索連動型広告に限らず、あらゆる広告プラットフォームの理解がスムーズになる。
下記の図は、検索連動型広告の仕組みを簡単にまとめたものになる。広告主/広告運用者が登録したキーワードが、インターネットユーザーが入力した検索語句(検索クエリー)をトリガーにして、一致されたと判断された場合に広告が表示される(説明を簡易にするためマッチタイプやオークションの概念は意図的に外している)。
つまり、インターネットユーザーが入力する検索語句(検索クエリー)をどれだけ想定して、広告主/広告運用者はキーワードを登録できるのか?が重要になる。検索連動型広告の難しさはココにあるが、同時に興味深さもココにある。
どういった戦略を練り、どういったキーワードを登録できるのか?は、どれだけ日頃から情報に接しているのか?が重要になる。日頃からの読書量や情報接点の多様性が問われる広告手法だと思う。
検索連動型広告だから、どうしてもGoogleやYahoo!の検索エンジンに入力するキーワードを想像しがちだが、Twitter、InstagramやTikTokのハッシュタグでの「タグる」も検索行動の一つに入る。
もちろん、検索エンジンで情報収集するときとSNSでハッシュタグでの「タグる」ときの心理状態は異なるが、インターネットユーザーが意識的に使い分けて分断しているわけでもない。
グラデーションの中で微妙な差異があり、年々境界線は曖昧になっているように感じる。こういった背景も理解しつつ、商材に応じたキーワード戦略を考えることが理想になる。
トリガーの範囲をコントロールする
しかし、闇雲にキーワードを登録していくことは現実的ではないし、あらゆるキーワードを機械的に組み合わせて登録しても結果は出にくい。戦略的に考え登録しなければならない。
そこで重要になるのがマッチタイプという機能になる。
完全一致>フレーズ一致>部分一致の順番でトリガーになる検索語句の幅は広くなる。
実際に、どのマッチタイプをキーワードに設定するかは予算規模や戦略によって異なる。
限られた予算にも関わらず部分一致のみで登録すれば結果が出ない可能性が高くなるなど、いろいろと考慮しなければならない。
また、マッチタイプによってインターネットユーザーが入力する検索語句と一致する順番が異なる。
広告主/広告運用者が登録したあるキーワードを完全一致と部分一致で登録した場合、完全一致か部分一致のどちらがひも付いて広告が掲載されるのか?という疑問である。
この順番をしっかりと頭に入れておかないと適切なアカウントを構成することができない。
また、最初の方に書いたGoogle 広告の動的検索広告(Dynamic Search Ads / DSA)やYahoo!広告の動的検索連動型広告(Dynamic Ads for Search / DAS)との兼ね合いなどもしっかりと把握しなければ、意図した通りに広告が表示できない状況に陥ってしまう。
下記のヘルプをしっかりと読み理解しておくことが重要になる。
経験者でも意外と知らなかったり読んだことがないなど、ときどき耳にするが、必ず目を通しておいてほしい。
また、検索語句の月間検索数や1語のキーワードか2語など組み合わせキーワードなどにより、設定するマッチタイプは異なる可能性が高い。さまざまな条件を考慮して決定しなければならない。
予算が限られている場合は、意味が広く多くの競合他社も登録しているキーワードの部分一致はあえて登録しないなど、戦略的なキーワード戦略をしたい。
※具体的な例などは「Google広告ヘルプ:キーワードのマッチタイプについて」の中にある例で確認し、基本的な仕組みも確認してほしい。
オークション
広告主/広告運用者が登録したキーワードが、どのようにしてインターネットユーザーが入力し検索語句(検索クエリー)をトリガーにして一致されたと判断されるのかは、広告オークションの概念の理解が重要になる。
インターネットユーザーが検索語句を入力するたびに、オークションが発生する。
このオークションに勝たないと広告は掲載されない。つまり勝率(Win rate)を高めなければならない。
広告ランク
オークションの勝率(Win rate)を高めるためには「広告ランク」の仕組みを理解しなければならない。
広告ランクの決定要素は、下記になる。
広告ランクを高めるための最短ルートは入札単価を上げることになる。しかし、トリガーの範囲をコントロールする、の中で書いた通り、限られた予算の中で最適化しなればならない。
ただ闇雲に入札単価を上げることは最適解になりにくい。
広告ランクを考慮した広告運用の基本的な考え方については、古い記事だが参考にしてほしい。
広告の品質
また、広告ランクを考える際に重要になるのが「広告の品質」と呼ばれる部分になる。
広告主/広告運用者が登録したキーワードに表示される品質スコアと広告の品質は似て非なる概念である。
広告の品質:広告の品質とは、検索広告をユーザーが目にした際のエクスペリエンスを推定したもの
品質スコア:他の広告主様と比べた広告の品質の目安をスコアで表示する指標
このように、明確にGoogleの公式ヘルプでも別概念として説明されている。
ときどき品質スコアを高めることを施策として提示している現場を見かけるが、品質スコアを高めることを施策(目的)にすることに意味はないとGoogle公式ヘルプでも明確に表明している。
実際の広告運用では、広告の品質を高めるためには「広告文」と「広告表示オプション」をしっかりと考え抜いて最適解を求めることになる。
レスポンシブ検索広告(広告)
頻繁に言われていることだが、複数の広告を常に検証しながら最適解を導き出すことが重要になる。
2022年6月30日より、拡張テキスト広告の作成および編集ができなくなることがGoogleから発表されており、今後はレスポンシブ検索広告を活用していくことになる(※終了時期は異なるが、Yahoo!広告も同様)。
レスポンシブ検索広告はタイトル・説明文を「アセット」と呼び、それぞれ複数のアセットを設定し自動的に組み合わせる中で広告オークションごとに最適なアセットの組み合わせで広告を表示させる仕組みになる。
レスポンシブ検索広告を作成する際は、タイトル・説明文のアセットを複数入稿することが必須になる。
ただ、複数のアセットが必要になるからと闇雲に入稿すると、意味が通じないユーザビリティの悪い組み合わせや、同じ訴求軸のアセットが同時に表示されてしまう可能性もある。
なんとなく闇雲にアセットを入稿するのではなく、いろいろなパターンを想定した入稿が重要になる。
また、社名(ブランド・指名などさまざまな言われ方があるが)キーワードはリピートユーザーも多い傾向があり、今までと広告文の見え方が異なってしまうとクリック率(CTR)が大幅に下がってしまう場合がある。
広告プラットフォームの仕様上で広告の見え方が異なることは仕方ないが、可能な限り過去と同様の広告に見える工夫(アセットの固定を活用)をした上で、さらに効果が高まるような設定を心がけたい。
また、広告オークションの項目で言及されているが、広告表示オプションは広告ランクを高める効果もあることから可能な範囲で設定することが推奨されている。
もちろん、広告表示オプションで情報が雑多になりユーザビリティが悪くなっていないかを確認することは大切である。とりあえず広告表示オプションを設定しておけばいいと考えるのではなく、何が目的なのか?ユーザーに伝わっているのか?は意識しておきたい。
自動入札機能(機械学習)
根本的な仕組みは変わっていないが、GoogleやYahoo!がコンバージョンデータやユーザーが入力した検索語句、検索時のユーザーの所在地、使用しているデバイス(例:モバイル デバイスやパソコンなど)、時刻、検索語句の性質、同じページに表示される他の広告や検索結果をはじめ、さまざまなシグナルを考慮した自動入札機能が充実してきている。検索連動型広告の運用を15年くらいやっていると、本当に自動入札機能の精度は高くなっていると感じる。
過去のように広告運用者が入札調整を実施するより格段に効果を出せるまでの期間は短くなり、実際の効果も上がっていると思う。
こういった背景もあり、キーワードのマッチタイプを「部分一致」で設定したとしても効果がブレ難くなっており、検索語句のレポートを確認すると想定していない検索クエリでコンバージョンしていることも増えた。
また、しっかりとしたSEO対策がされていればGoogle 広告の動的検索広告(Dynamic Search Ads / DSA)やYahoo!広告の動的検索連動型広告(Dynamic Ads for Search / DAS)での効果もかなり高い。僕が運用しているアカウントでは外せない施策になっている(当然ながらビジネスやWebSite、SEO施策の状況で効果が出ない場合や使わない場合もある)。
それに加え、レスポンシブ検索広告で検索クエリと一致率の高いアセットの組み合わせが表示されることで、より効果的な結果を導くことが可能になってきている。
広告主/広告運用者は、インターネットユーザーが入力した検索語句(検索クエリー)をトリガーと意識しながら、必要最低限の設定をすることで最低限の効果が出せるようになっている。
けれども、この必要最低限の設定というのが厄介なことでもある。なぜなら、何を以って最低限と定義できるのか?は非常に難しいからである。
ノイズとシグナル
広告運用者がやるべき内容は変化してきたと言われている。
具体的に変わった点は、ノイズとシグナルを見分けて行く精度だと、僕は思っている。自動入札機能が発展する前は、広告運用者がシグナルをコントロールできる範囲が大きかったが、現在はコントロールできる範囲が限られてしまってる。そして何よりも、自動入札機能(機械学習)の高度化により短期間で結果が出せる反面、初期段階で最適なシグナルを学習させなければならない。
初期設定を間違えてしまい、シグナルではなくノイズを学習させてしまうと効果が出ない結果になる。
「なんとなく」という戦略に基づいた設計・設定では、効果を出すことが今まで以上に難しくなっている。可能な限りノイズを排除し、目標に応じたシグナルを読み込ませるような戦略と設計・設定をしなければならない。
昔から同じだとは思っているが、広告運用の「運用」は、意図した戦略や設計・設定通りにアカウントが機能し広告が掲載されているか?ということをモニタリング(観察)し、意図と異なる結果となっている場合に原因を追求し軌道修正していくことだと考えている。
「なんとなく」という戦略に基づいた設計・設定では、場当たり的な解決にしかならず継続的に効果を出すことは難しいと思う。
基本的な仕組みを理解し、GoogleやYahoo!などの広告プラットフォームが見据えている未来と同じ方向を向いて想像し続けなければならないのが、広告運用者の宿命なのだと思う。
まとめ
ざっと検索連動型広告について再整理を試みた。
最初に書いた通り、完全ガイドでは決してない。細かな部分の抜け漏れなどはある。ただ基本的に理解が欠落していると困る部分は書いていると思う。
そして、順を追っていけば検索連動型広告を基本的な部分から理解するための補助線くらいの内容にはなっており、おぼろげながらも全体像が見えるように組み立てたつもりでもある。多少なりの参考になれば幸いである。